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熟年離婚をする時、“年金”の分割はどうなる?

更新日:2021年08月25日
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厚生労働省の統計によると、年間約64万組が結婚し、約22万組が離婚しています。そのうち、熟年離婚は5万件以上。つまり、離婚の総件数の約1/4が、熟年離婚なのです。
 高齢化が進む日本において、年金問題は重要です。そこで本記事では、「熟年離婚をした場合の年金システム」についてお話していきます。

熟年離婚

 “熟年離婚”の法律上の定義はありませんが、「結婚20年以降に離婚すること」を指すのが一般的です。(子どもの養育を終えた後、という考え方もあります。)
 ですので、例えば中高年同士が結婚して10年経ってから離婚した場合は、熟年離婚とは呼びません。

“年金分割”とは

 そもそも“年金分割”とは、夫婦それぞれが支払った厚生年金保険料を決められた割合で分割する制度です。
 

“年金分割”で定められた権利

 平成16年に法改正があり、社会で働いていない、いわゆる専業主婦/夫が離婚をしても、分割して年金を受け取る権利が認められるようになりました。
 基本的には、離婚の協議の際に割合を決めますが、家庭裁判所の審判によると、上限は50%であるとされています。

対象となる年金と金額

 ここで注意していただきたいのが、“年金分割”にはすべての年金が含まれているわけではないということです。
 対象となっている年金は、
・厚生年金
・共済年金
に限られます。
 また、上限が50%とは申しましたが、単純に年金額の半分ということではなく、「報酬比例部分(加入期間と報酬の平均によって算出される年金額)」のみとなります。

2つの“年金分割”制度

 ところで、一口に年金分割といっても、2種類の制度があります。それぞれについて見ていきましょう。

「合意分割」

 合意分割とは、夫婦間で話し合い、まとまらなければ裁判所の決定による、厚生年金や共済年金の分割制度です。「合意」の名の通り、これには夫の合意が必要です
 対象となるのは「婚姻期間に夫婦双方が支払った厚生年金・共済年金の納付記録を合算したもの」で、夫の国民年金や企業年金は対象外です。
 

「3号分割」

 3号分割は、平成20年4月にスタートした年金の分割制度です。
 名前の由来は、“第3号被保険者である会社員の専業主婦等が利用できる制度”、ということです。これは、妻が第3号被保険者だった期間の夫の厚生年金のみを指します。
 対象となるのは「平性20年4月以降に相手が支払った厚生年金保険料の納付記録」です。分割の割合については、例外なく1/2です。この際、夫婦間の合意等はいりません

その他の特徴

 その他にも“年金分割”には様々な特徴がありますので例を示します。
・請求できる期間が決まっている
  原則として、どちらも離婚後2年間しか請求出来ません。
・事実婚の場合でも認められる
  合意分割と異なり、3号分割だと事実婚にも適用されます。但し、事実婚の場合の厚生年金の分割には、第3号被保険者期間が終了していること、事実婚を解消すること、を証明出来なければなりません。

分割の割合を決める

 『3号分割』は、夫の合意もいらなければ、対象、分割の割合が画一的に決まっているので争いはありませんが、『合意分割』を利用した場合、基本的には夫婦の話し合いで分割の割合を決めていきます。それはどのような流れなのでしょうか。

年金分割のための情報通知書

 まず、割合を決めるには、夫婦それぞれの年金についての情報が必要です。そのためには、年金事務所を訪れ、「年金分割のための情報提供請求書」を提出し、「年金分割のための情報通知書」を入手しましょう。
 その際必要なのが、
・請求者の年金手帳、国民年金手帳
・戸籍謄本(戸籍事項証明書)または住民票
です。
 この請求は、夫には請求があったことを秘密にしてくれますので、安心して離婚前にこの行動をとることが出来ます。

年金分割のための情報通知書」を使って話し合う

 手に入れた「年金分割のための情報通知書」を基に、夫婦で年金分割の割合について話し合います。なお、上述の通り、上限は1/2です。

夫婦間で合意が得られなければ調停を

 協議で割合が決められないと、家庭裁判所に申立、調停にて割合を決めることになります。夫婦と調停委員一人が、合意を目指して話し合いを行います。
 調停の申立に必要な書類は、
・年金分割の割合を定める調停の申立書
・年金分割のための情報提供通知書
・夫婦の戸籍謄本
です。費用としては、
・収入印紙:1,200円分
・連絡用の郵便切手:800円分
がかかります。

協議の流れ

 ここまで、夫婦の話し合い→調停、とご説明いたしましたが、それでも決まらない場合は、さらに審判→裁判、と争いを続けることになります。
 この流れは、離婚の時のシステムとほぼ同じだと考えてよいでしょう。

熟年の夫婦

「合意分割」を選ぶか、「3号分割」を選ぶか

 さて、「合意分割」と「3号分割」の関係性とはどのようなものでしょうか。その差は?どちらがお得?と疑問を持たれるかと思いますが、結果から言うと、両制度は同時に利用できます。
したがって、「得するためにはどちらを選ぶべきか」を考える必要はなく、一方の制度を利用すれば、もし、もう一方の制度を利用しうる場合にも、自動的に適用されます。
つまり、一方の制度の利用を申請することによって、自動的にもう一方の制度も申請されたと見なされるのです。

分割割合が決まったら~合意分割~

 割合が決まれば次に起こすアクションは年金分割の手続です。この際、「協議(話し合い)」「調停」「審判」「裁判」のうちどの段階で合意があったかによって、手続内容は変わっていきます。

協議で分割を決めた場合

 原則として、元夫婦が一緒に年金事務所に行く必要があります。相手方に会いたくなければ、代理人を立てることも可能です。
 必要な書類は
・年金分割の合意書
・元夫婦双方の戸籍謄本
・双方の年金手帳
です。

調停、審判、裁判で分割を決めた場合

 元夫婦のどちらか一方が年金事務所に行って手続をします。(2人でも構いません。)
 必要な書類は
・調停調書等の年金分割について決定された謄本
・元夫婦双方の戸籍謄本
・年金手帳
です。

分割割合が決まったら~3号分割~

 3号分割を選んだ場合、合意分割の手続とは異なります。
 手続きする人は第3号被保険者(会社員の専業主婦)が年金事務所に行って請求するだけで、強制的に1/2に分割されます。必要な書類は
・年金手帳
・元夫婦双方の戸籍謄本
です。

終わりに

 以上の通り、熟年離婚をして年金を分割するためにはかなりの手続を要することがお分かりいただけたでしょう。
 ですが、せっかく熟年離婚して自由を手に入れたとしても、先立つものがなければ不安を抱えることにもなります。そのためには、しっかりと事前の準備をし、出来る限り高額の分割を得ましょう。
 一般的に、離婚を成立させるためには、短くても1年はかかると言われています。それと並行して分割の協議をするのはエネルギーを要しますが、未来の自分のために尽力しましょう。

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離婚慰謝料弁護士ガイド 編集者

離婚問題に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 離婚問題でお悩みの方は是非参考にしてみてください。 また、お一人で悩まれているなら一度弁護士へのご相談を強くおすすめ致します。 今後も離婚問題に関する情報を多数発信して参ります。

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