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熟年離婚と夫の退職金:知らなきゃ損する!専業主婦の“権利”

更新日:2018年12月29日
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 「熟年離婚」をするときに最も気がかりなのは、その後の生活の金銭面ではないでしょうか。老後はなんの気兼ねもなくゆったりと過ごしたいもの。
 そこで今回は、熟年離婚時の財産分与で、「専業主婦だった場合、『夫の退職金』がどのように扱われるか」にフォーカスします。無賃の家事労働に退職金はありません。専業主婦は、法的にどのような扱いを受けるのでしょうか。

そもそも財産分与とは?

 財産分与とは、婚姻生活中に夫婦で築いた財産を、離婚の際に各人の貢献度に応じて分配することをいいます。民法768条でも、「協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。」と定められています。
 

離婚でもらえるお金の種類

 では、離婚をする際に財産分与をすると、どのような種類のお金がもらえるのでしょうか。それは、3つの性質に分けることが出来ます。

①夫婦財産の清算

 財産分与の中で最もウェイトを占めるのが、「夫婦財産の清算」といえるでしょう。その意義とは、夫婦の協力によって築いた財産を清算することです。
清算の対象となる財産は名義を問わず、婚姻後、夫婦が取得した財産+協力により維持された特有財産など、過去の婚姻費用の清算も含む(判例)、というものです。

②離婚後扶養

 離婚時にどちらかが病気であったり、経済力が乏しかったりする等、経済的に強い立場の者が弱い者に対して、離婚後も一定額を定期的に支払う、ということが一般的になされています。

③慰謝料

 有責(ゆうせき)行為(虐待・暴力・不貞行為等)があった場合には、慰謝料を請求することが可能です。
財産分与と慰謝料の関係は、同じか別々かが問われるところですが、判例は中間的な立場を示しています。曖昧かのように思われますが、この手法をとることにより、逆に柔軟な対応が出来るようになっている点が特長です。

小槌

退職金の扱われ方

 ここまで、離婚によって生じるお金を見てきました。預貯金・給与・株券・不動産等は財産分与に相当します。では、本題の『退職金』は、①夫婦財産に含まれるのでしょうか。

貰える?貰えない?

 ここでよくある論争が、
男性:「定年まで毎日摩耗しながら働いてきた仕事の退職金だから、退職金は私のものだ」
女性:「あなたが働いていた間、家を守り、家事をこなし、精神的支えにもなったはずだ」
 というものです。どちらの言い分も、正しいように感じます。
結論から申し上げると、退職金も財産分与の一部として請求可能です。それは、退職金は給与の延長だと考えられており、妻が家庭を支えることによって獲得することが出来る財産=夫婦の共有の財産といえるからです。
 

いくら貰える?

 財産分与の基本は50%ずつですが、退職金は特別な計算方法で導かれます。勤続年数が婚姻期間より長い場合、割合が減額されるのです。
 但し、財産分与を請求する時点で退職金が残っている、ということが前提です。よって退職金を住宅ローンの清算、子どもの学費の充当、等に使いお金が残らなかった場合は、財産分与として請求することは出来ないでしょう。

法律上の地位

 財産分与の退職金の金額については、確立した計算方法はありません。また、案件に応じて額は変動するため、ここでは基本的な金額設定をご紹介します。

退職金がまだ支払われていない場合

 退職金支払いがまだの場合、退職金が支払われるかどうかの可能性で、妻が財産分与として受け取る金額が算定されます。その基準は、
1.夫の勤め先に、退職金を支払う規定があるかどうか
2.会社の経営状況は良好か
3.配偶者(ここでは夫)の会社への在籍期間(※)
(※例えば転職が多く、会社への貢献度が低く在籍期間が短い場合、退職時の勤め先から十分な退職金が望めない可能性があるため。)
4.退職金が支払われるまであとどのくらい期間があるか
の、4点です。これらの判断により、妻がまだ退職金をもらっていない夫から、それを財産分与として請求できるかどうかが決まります。

退職金がすでに支払われている場合

 すでに退職金が支払われていた場合の例として、夫の仕事の勤続年数が35年間で、婚姻期間が25年間の夫婦で算出してみたいと思います。
 夫は10年間独身だったので、妻は35年-10年=25年を共にしてきました。妻の、夫への貢献度(寄与期間割合)は71.4%(25年/35年)なので、退職金の71.4%を折半することになります。つまり、71.4÷2で、妻は35.7%の退職金からの財産分与を受けることが出来るのです。

個人での限界

 ご説明した通り、退職金の請求額を計算することは、専門的な知識や手続が必要です。しかも、夫と同居している方にとっては切り出すのが難しく、逆に論拠を示せとされた場合、その後の生活にまで支障をきたすかもしれません。
 ですので、「退職金」という、扱い方が難しい問題に関しては、弁護士に相談するのが得策といえるでしょう。

花束

財産分与の一部としての退職金の請求方法

 退職金が共有財産として見なされることがわかったうえで、それをどのように請求したらよいのかは、「わからない」という方が多いのではないでしょうか。
 そんな「わからない」を、具体化していきたいと思います。

金額の争い

 まずは「話し合い」から始められる方が多いと思います。財産分与は50%ずつが慣例ですが、双方が合意するのであれば、9:1でも自由に決められることが出来ます。きちんと納得出来れば、必ず書面に残しておきましょう。
 話し合いで判断がつかないようであれば、「調停」→「裁判」と、通常の離婚と同じプロセスを経ます。

金額の決定

 但し、お察しの通り、退職金問題を裁判まで持っていくのには、労力はもちろん、資金も必要です。そのような事態を避けるため、早めに弁護士の力に頼るのが大切でしょう。

支払いの決定

 財産分与の請求権利は期限があります。それは「離婚した時から2年以内」です。離婚の争いは長期化することが多いので、財産分与について話し合いに時間がかかっている方はまず、この点を注意してください。
 判例では、支払いの時期についてはケースバイケースで対応しています。
 タイミングは①離婚時②退職金が支給された時、に大別されますが、話し合いでなんとか交渉出来そうであれば、なるべく離婚の時に払ってもらいましょう。中には、退職金の支給を待って離婚する方もいらっしゃいます。

終わりに

 夫の主張を聞かされると、なんとなく「退職金は夫のもの」と感じてしまいそうですが、専業主婦の方にも請求できる立派な権利です。換言すれば、家事にだって労働の給与を支払って欲しいくらいだと思っている方も大勢でしょう。
 少しの財産とたくさんの期待を込め、「熟年離婚」からの「新しい人生」という第二幕を楽しんでいただければ幸いです。

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離婚慰謝料弁護士ガイド 編集者

離婚問題に関する記事を専門家と連携しながら執筆中 離婚問題でお悩みの方は是非参考にしてみてください。 また、お一人で悩まれているなら一度弁護士へのご相談を強くおすすめ致します。 今後も離婚問題に関する情報を多数発信して参ります。

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