同じ婚姻の意思を持って同居している男女関係において、法的な手続きをしていれば妻に、していなければ内縁の妻になるということはご存じの方も多いでしょう。
しかし、妻と内縁の妻とではどのような違いがあるのかについては、何となく理解しているというケースがほとんどではないでしょうか。
お互いに大切な存在ではあっても今後婚姻届を出す予定がないという場合は、内縁の妻としてどういった立場になるのかを事前に理解しておくと安心です。
この記事では、妻と内縁の妻との違いについて紹介していきます。
お互いに婚姻の意思に基づいて役所に婚姻届を提出すると、法律の上では婚姻関係が成立します。
こうした関係での女性の立場は妻となります。
対して、婚姻の意思を持って同居してはいるものの婚姻届を提出せずにいる場合は、いわゆる内縁関係となり、女性は内縁の妻という立場になります。
要は役所に婚姻届を出して戸籍上夫婦となっているか、それとも戸籍上は独身の男女が同居している状態かによって、妻か内縁の妻かに分かれるというわけです。
妻と内縁の妻とは、さまざまな面で違いがあります。
まずは双方の立場における違いが比較しやすいよう表にまとめてみました。
妻 | 内縁の妻 | |
姓の変更 | 変更できる | 変更しなくてよい |
成年擬制 | 適用できる | 適用できない |
親族との関係 | 姻族関係が築ける | 姻族関係は築けない |
出産した子ども | 嫡出子となる | 非嫡出子となる |
子どもの親権 | 離婚時の協議により可否が分かれる | 原則とれる |
相続 | できる | 相続人がいない場合分与請求できる |
社会保険の扶養 | 夫の扶養に入れる | 内縁の夫の扶養に入れる |
遺族年金の受給 | できる | 一定の要件を満たしていれば可能 |
関係解消による慰謝料 | 請求できる | 請求できる |
関係解消による財産分与 | 婚姻中の共有財産は可能 | 内縁関係中の共有財産は可能 |
婚姻届を提出し戸籍上の婚姻関係が成立している妻の場合、一般的な婚姻生活を送る上での権利を持つことができます。
現代の日本では、婚姻関係のある夫婦が別姓を名乗ることは認められていないため、どちらかの姓を名乗ることになりますが、大半は妻が夫の姓に変更します。
内縁の妻は、法律婚をしている妻のように戸籍上相手の男性との婚姻関係は成立していませんから、姓を変えないまま生活できます。
民法で定められている成年擬制制度とは、法律婚をした未成年者を成年者として扱われる制度のことです。
日本では男性は満18歳から、女性は満16歳から法律婚ができます。
成年者とされる20歳に達していなくても、法律婚をすることで民法上は20歳以上の成年者と同じ扱いを受けることができるため、住宅の賃貸借契約を結んだり子どもの親権者になることが可能です。
内縁の妻の場合、法律上は婚姻関係にありませんから、成年擬制は適用されません。
法律婚だと、妻は夫の両親や親戚と姻族関係を結ぶことになります。
たとえ「結婚したのは自分たちの意思で親や親戚は関係ない」と本人たちが考えていたとしても、婚姻届を提出した時点で姻族関係は発生します。
もし夫が死亡した場合でも姻族関係は終了届を出さない限り続くため、法的な義務ではないものの義両親の扶養を負う可能性があります。
内縁の妻の場合、法的に婚姻関係を結んでいるわけではないので、内縁関係が始まっても姻族関係は発生しません。
相手の男性の両親や親戚とはあくまでも知り合いですので、いわゆる嫁としての務めを果たさなければいけないといったプレッシャーを受けることはないでしょう。
また、内縁の妻には相続や社会保険の扶養といった面の権利を持たないというイメージがありますが、条件をクリアしていれば相続権を主張したり扶養に入ることはできます。
ただし相手の男性と婚姻の意思を持って同居していること、つまり内縁関係にあることを証明する必要があるため、手続きが完了するまでの手間はかかります。
そして、もし関係を解消することになった場合、法律婚であれば離婚という手続きをとります。
内縁関係の場合は、そもそも戸籍上の変更がないため、本人同士の意思だけで同居生活をやめるだけです。
法律婚の場合、妻が夫から不貞行為や暴力などを受けて離婚となり、精神的苦痛を与えられた場合は慰謝料の請求ができます。
そして内縁関係であっても、同じように精神的苦痛を受け内縁関係が破綻した場合は、相手に慰謝料を請求できます。
また、離婚時に夫と妻が婚姻中に築いた共有財産を分与するのと同じように、内縁関係の場合も関係解消時に財産分与をします。
内縁関係中に築いた共有財産が分与対象となります。
判断に迷うものとしてよく挙げられるのが、内縁と同棲とはどう違うのかということです。
一言で言うと、男女双方が婚姻の意思を持って生活しているかどうかがポイントとなります。
同じ住宅内に居住しているという状況は内縁も同棲も同じです。
しかし、内縁がお互いを夫婦として認めあって同居し、同一の生計で暮らしているのに対して、同棲は恋人関係ではあるものの婚姻の意思はない男女が同居している状態をさします。
「結婚するつもりはないけれど今付き合っている彼と一緒に暮らしている」というケースは同棲にあたり、内縁関係とは言いません。
内縁はお互いの関係を、同棲はお互いの状況を表していると説明すると分かりやすいでしょう。
内縁関係であれば、戸籍上は独身の男女であっても生計を同じくして互いに扶助する義務が生じます。
また、他の異性と肉体関係を持ってはいけないという貞操の義務も発生します。
夫婦同然の認識で生活していますから、戸籍上は夫婦ではなくても法律婚の夫婦と同じ義務を負っていると認識する必要があるのです。
対して同棲の場合はこうした義務を負っていません。
もし相手の男性が他の女性と肉体関係を持ったとしてもそれは恋愛として自由ですから、女性が男性に対して慰謝料を請求する権利はありません。
これは逆に女性が他の男性と肉体関係を持った場合も同様です。
同棲ではなく内縁関係だと主張したい場合の目安として、一般的には3年以上同棲していると内縁関係と認められるとされています。
しかし、同居の年数ではなく互いがどのような意思を持っているかが重要です。
10年以上一緒に住んでいても婚姻の意思がなければ同棲であって、内縁関係とは認められません。
逆に同居期間が1年程度であっても、互いに婚姻の意思があり夫婦として生活しているのであれば内縁関係と言えるでしょう。
妻も内縁の妻も、夫や内縁の夫と互いに夫婦として認めあい、ひとつ屋根の下で暮らしているという状況は同じです。
ただし、法律婚での妻と比べると自由度が高いイメージがある内縁の妻は、相続などの面ではどうしても保護が弱いと言えます。
戸籍上はそれぞれ独身の男女という関係であることを念頭において、より強い自立心を持って生活する姿勢が必要だと言えるでしょう。
そして、内縁関係の状態で関係を解消する際に慰謝料などを求める場合や、相手の男性が亡くなった場合に請求できる権利を行使したい場合などは、自分だけで対応するには限界があります。
法律のプロである弁護士のサポートを上手に活用するのもひとつの方法だということを頭に置いておきましょう。
2020年03月31日 離婚慰謝料弁護士ガイド 編集者